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2008年10月

第2回 事実が違えば結論も違う

このブログもようやく第2回となりました。

今回は、ある判決を取り上げたいと思います。

平成20年9月12日、最高裁で、ペットに関する税務訴訟の判決が出されました。
(平成18年(行ヒ)第177号)

ペットといっても、私たちに身近な飼い主側の判決ではありません。

ペット葬祭業を営む法人(宗教法人)を当事者とする判決です。

(なお、この最高裁判決の原審であります名古屋高裁判決は、当ホームページ「租税判例研究報告 第28回」に掲載しています。)

事案の詳しいご説明は省きますが、ごくごく簡単に以下に争点を説明します。

公益法人である宗教法人に対しては、基本的に課税は行われません。

ただし、一定の事業からの利益には課税されることとされています。

そして、ある事業が課税の対象となる「収益事業」(法人税法2条13号)にあたる場合、その利益は課税されます。

本件事案は、ペット葬祭業が、この「収益事業」にあたるかどうかが争われました。

最高裁は、判決において、以下のように法律を解釈し、この宗教法人の行うペット葬祭業は「収益事業」に当たると判断して、宗教法人の請求を退けました。

【事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われる性質のものか、それとも役務等の対価でなく喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。】

判決文は難しいですね。

要は、「事案ごとに社会通念に照らして判断します」ということです。

これは『法律の解釈』の部分です。

そして、最高裁は、

 ・本件ペット葬祭業の料金体系

 ・同様のペット葬祭業を営む民間業者との比較

などの項目を取り上げて、それらを社会通念に照らして判断し、「収益事業」に当たるとしました。

これは『事実のあてはめ』の部分です。

判決文は、このように、『法律の解釈』とそれに『事実のあてはめ』を行って結論を出す、という構成になっていることが一般的です。

裁判では、先に出された判決で示された法律の解釈を尊重します。

ですから、『法律の解釈』がころころ変わるということは通常ありません。

しかし、『事実のあてはめ』は、当然のことですが、事案の事実が異なれば、結論も異なります。

もし、自分がペット葬祭業を行っていたとしても、その利益が課税されるのかというと、必ずしもいつもそうではありません。

ペット葬祭業の料金体系や、民間業者との比較などの項目を取り上げ、それらを検討した結果、別の事案では反対の結論が出る可能性もあるのです。

事実は、事案ごとに千差万別です。

ですから、同種の事案で自分に不利な結論の判決が出ていたとしても、それで敗訴と決まるわけではありません。

その事案における「事実」を裁判所にきちんと伝えることができるかどうか。

それが勝負の分かれ目ともいえるのです。

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第1回 納税者が制度を動かす?

平成20年8月、経済産業省は、平成21年度の税制改正において、
海外子会社からの配当を益金不算入とする制度の導入を検討していることを公表しました。
(http://www.meti.go.jp/press/20080822002/20080822002.pdf)


では、このような提案がなされた背景は何でしょう。


経産省は、提案理由の中で、
・我が国企業の海外生産比率が約3割強に上昇し、海外利益が大幅に増加
・それに伴い、海外利益の多くは国内に戻らずに海外に留保されている
という統計を出しています。

そのため、海外子会社からの配当を益金不算入にして、
国内にキャッシュを還流させることが、この制度導入の目的のようです。


では、この制度を導入することで本当にその目的は達成できるでしょうか。


会社法上、配当は必ず行わなければならないものではありません。

親会社が資金を必要としない場合には、海外子会社からの配当がなくても、
株主である親会社から批判が出るということもないでしょう。

ですから、海外で得た利益は、海外子会社に留保したままでもいいはずです。

しかし、親会社において、本当は日本にキャッシュを戻したいのに戻せない最大の理由に、
国際的に見て高い我が国の税率があることは間違いありません。

そうであれば、この制度を導入することにより、
海外子会社から我が国へのキャッシュの還流が期待できそうです。


ただ、こうした制度を導入しようとするもう一つの背景には、
  「納税者のまっとうな主張の増加」
があると、私は考えます。

海外子会社に利益を留保する、ということは、企業にとって、
当然の合理的な経営判断である場合が少なくありません。

法律の範囲内で適正なタックスプランニングを行うことは、
現代の営利企業にとっては義務とすら言ってもいいものです。

不要な税金を支払うことは、株主に対しても説明がつきません。

ところが、国税庁は、企業が海外に利益を留保することを、
  「国際的租税回避」
とみる傾向が非常に強いのです。

我が国の租税回避防止規定として思いつくのは、
タックスヘイブン対策税制や移転価格税制などですが、
これらを根拠とする更正処分が、近年、非常に増えています。

適正なタックスプランニングをした納税者は、これには黙ってはいられません。

企業の合理的な経営判断を阻害するような更正処分に対して、
訴訟まで視野に入れた主張をするようになってきています。


こうした納税者の行動は、我が国の税制が現代の企業活動に合わなくなってきたことの現われです。

今回の経産省の提言には、こうしたことも背景にあるのではないでしょうか。

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